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反社会的

以下フィクション。

雪だった。木の枝一本一本を上から包み込むように白く冷たい雪がこびりついていた。 ペースは40km/Hもあればいいほうでたまに車は高速道路上で停止させられた。
もう3月になったのに、気温は零度付近で、空からは雪を含む空気がどんどん舞い降りてくる。 ついでに路面も白く凍りつく。
積雪による渋滞である。
だが、ここは日本の動脈ともいえる道である。国家の威信をかけて除雪が行われる。 幅が2m以上はあると思われる除雪車を2台ならべての作業で積雪は0cmになり、路面は 黒くアスファルトの色に戻る。 たまたま私の車は、スタッドレスタイヤをはいていた。しかも駆動輪は4つ。エンジンは前に 縦置き。左右の車輪の重量バランスは、ほぼ均等。前後の重量比はさすがに前よりに重い が、これはステアリング荷重がそれなりにかかることを意味する。 比較的、雪道にたいして有利な条件だが、除雪車がペースカー的にはいる高速道路の雪道では 追い越しは、ご法度であり、おとなしくついていくしかない。ギアは3速にはいればましな状態。 滋賀県は関が原から、米原で北陸道と合流するこの道は、名神高速といい、愛知県一宮から、 兵庫県西宮市までを結ぶ。この日、関が原から八日市までは完全な雪道だった。 1月2月の真冬でもあまり積雪がないが、たまにこういうドカ雪が除雪車を名神に呼ぶ。この日は、遂に 栗東I.C近辺まで除雪車がペースカーとなって車列を御した。
だがやはり、京都に近づくにつれ、路面の湿潤具合が変化する。簡単にいえば、西に行けばいくほど、 雨道になる。そしてこのころには、ペース、車速もあがり、80km/h程度になっていた。
栗東で名神高速は片側3車線になる。前方を塞ぐペースカー=除雪車も消え、車線が増えて平均速度があがる と、全体のペースがあがる。別にみんなでペースをあげようと打ち合わせをしているわけでもないのに、 同期したようにアクセルペダルの角度が、変わる。車の速度計は100km/hをさしている。ギアは4速。 まだ加速途中だ。だが、平均20km/H程度の渋滞につかまっていた視野の感覚は、100km/Hでも かなりの速度に感じさせる。だが、そんなことは、左側から抜こうとする別の車のヘッドライトでかき消された。 100km/Hでは遅いと思ったのか、左から抜きにかかっている車が居る。
通常この状況つまり左側の走行車線から抜かれそうになったときは、相手の方がスピードの勢いがついている ので、おとなしく抜かれるのを待つ。これが安全な大人のドライブだ。もっと気を利かせるなら、 あえて軽くブレーキでも踏んで、相手を優先させるなどということも行われて いる。ただ、ひっかっかったのは、左から、という一点だけだった。それ以外は何もきにならなかった。が、一点 のひっかかりが、加給機に仕事をさせることになった。 私の車には、最大で220馬力を発生する原動機(エンジン)が載っている。日本国内での日本車のもっとも 大きい馬力は、280馬力。これには、遠く及ばないが、220馬力というのは、通常の道での破壊力は まだまだ大きい。さらに雪が降るほどの低温。これは 空気密度が濃くなり、ガソリンと混ぜた混合気がとてもよく燃えるということになる。そんなことは一切考えも せずただ直感的に体が動いた。 ツンッと指先に力をいれると、アクセルペダルが地面にむけて押し下げられ、エンジン回転計の針が動き始める。 左側を走る隣の車は、先端こそ前に出たものの、車体を完全に前に出すまでにいたっていない。車体を完全に 前に出し切らないと、私の前に車線変更することはできない。 私は、アクセルペダルを踏む角度 をじっと我慢をして保つ。そして保ちながらもすこしずつ指先をひっかくように押し下げ気味にする。 すると、メーターナセルの 奥、ボンネットバルクヘッドの奥から、ヒューン、という音が聞こえ始める。 少し古くなったコンプレッサー、日本車文化的に言うとターボ、の回転がはじまった。回転数があがる音。 すぐに背中がシートに押し付けられる。エンジン 回転計をみている余裕はなくなり、前方を注視、ハンドルを持つ手には力がはいる。あと少しで一馬身ほど前に 出られそうだった隣のくるまのヘッドライトが、サイドミラーの中で小さくなっていく。
「左から抜こうとするから・・・」
自分に対してか、世間に対してか、とにかく後ろめたさを感じて言い訳をする。でもスピードをゆるめるわけではない。 おまけに後続車も加速したため、隣の車線でがんばっていた奴は、追い越し車線にくることができなくなっていた。 いつもならここで終わり。もうあの車とは再び会うことはない。だが、栗東の3車線という場所は、ひとあじ違った。 一番左の車線に抜けてものすごい勢いでアクセルを踏み込んできている1BOX車が見えた。
「あぁ、あの車だったのか・・・・」
珍しいものを見るような気持ちになってみていると、瞬く間に横を抜いていく。追い越し車線に居た私の車は 車列が詰まって速度が逆に落ちていた。そして狂ったような1BOXカーが、ずいぶんと前の方で3車線の真中に 移るのが見えた。車高も高くて重心位置も高そうで、車重もありそう、且つエンジンもそんなに期待できないような 車だが、乗る人間次第で豹変する。ムキになってアクセルをあおって目を三角にして追い越しをしまくる1BOX車。
ちょっと悪かったかな・・・と思ってみてもやはり悪いのには違いない。性能的な余裕を試してみたくなったのだ。 法規とかマナーなんてない。だがレースでもないし、つっぱっているわけでもないから、 悪気も競り合う気もあまりない。だから、狂ったように追い越していった1BOXを遠くに見ても、なにも感じない。 ちょっと無駄にしたガソリンのことを思っておとなしく追い越し車線をキープする。
名神高速は、京都を通る。新幹線も京都を通るが、京都駅で乗り降りする人は多い。高速道路も京都で乗り降り する車がおおいため、日本道路公団は、京都を通らない道を付け足した。いわゆる京滋バイパスである。びわこの 南、大津の手前付近の瀬田というところで、京都を通らない、南に下る道がこれで、枚方のあたりを抜けて京都の 大山崎で、再び名神と合流する。京都に寄る用事がなければ、京滋バイパスを通れば、渋滞もなく快適だ。私も この快適さを知るひとりで、瀬田にさしかかったところで左にウィンカーを出して京滋バイパスに乗る。ここは、 チケットのチェックもなく、車も少なめなので、とても走りやすい。バイパスという名だが、高速道路なので信号も 当然ない。快適に走っていたが、走行車線のペースが遅めなので、追い越し車線を120km/Hをキープして 走る。すると、また1BOX車が居た。さっきの奴と同じかどうかはわからないがのんびり走行車線を走っている。 その傍を120km/h程度でサーッと走り抜ける。とくに刺激したつもりもない。だが少し気になって 後ろを気にしてみた。バックミラーに車線変更をする1BOXカーの姿が映った。 さらに加速してくる。そしてぴったりくっつく。こちらのことを覚えていたのか、それとも単に抜かれるのがイヤな 奴なのか、よくわからない。ただ車間距離が、あまりよろしくない感情を表しているような気がした。
しかし、走行車線はあいかわらず遅い。100km/Hより遅いのではないだろうか。後ろから煽られているので、 大人らしく左に引き込めばよいのだが、車速を落とすのがイヤで追い越し車線でがんばることにした。タイヤが スタッドレスなので、無茶はできないし、だいたいどんな車でも140km/Hくらいは軽く出てしまうので、後ろの 1BOXががんばれば先行も不可能ではない。この道は車がたまに途切れるので、そこで先ほどと同じく、左から 抜くというやり方ができるのだ。それに付き合ってアクセルをふみこみ合うのもバカみたいでいやだったので、 とにかくマイペースで行くと決める。マイペースだが、ハイペースで。
まるい、すり鉢の中で4つのタイヤの外側のエッジをこするような感覚で、ドライブをする。高速で回転するタイヤ がすこしすべりながらも路面をひっかいている感覚に、サスペンションの沈み込む感覚を混ぜ合わせて作り上げた イメージだ。これがじつに高速走行に向いている。タイヤの空気圧調整ができていれば、あとはこの感覚で 安全運転のマージンを確保しつつ、加減速を繰り返す。もちろん、すり鉢の中で車体が傾きすぎてグリップを失わないように、アクセルオフやブレーキングによる荷重を行う。やはり、直線で加速、カーブでは我慢というのが基本だが、そのなかにも微妙な動きがある。スタッドレスタイヤを 信じないで、路面をまっすぐ押し込んでグリップするような感じでハンドルをさばいていく。
「こんだけがんばっても、 コンディションのいいやつにはかなわないんだよな、」などとひとりごちてふとルームミラーにめをやると、 自分の後ろに車がまったくいなくなっていたのがわかった。
「速そうな車をみつけるとすぐに後ろについていこうとする輩」
こういう奴が居るが、さきほどの1BOXが結局これだったのだ。でも、あまりに相手が速いとついていけないのだ。 それであきらめて走行車線に戻って次の獲物を待つ。ちょっと早めの奴なら後ろからついていくのに技術力は 要らないので、オービスよけにもなる。そういう走り方で、ずっとやってきて、これからもやっていくのだろう。 車は巨椋を抜けて新しくできた道にのりかかる。名神大山崎までの区間は、新道である。

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